メモ帳がわり
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DATE: 2013/02/06(水)   CATEGORY: 未分類
カラクリ職人の妄想 かきかけ
ネタちゃん
「おや、失敗したようじゃ」

鈴の声音に合わない口調を聞いて、“彼”は目を開けた。
横たわっているのは深藍のシーツ。天井に不思議な渦巻きの模様が見える。
先ほどの声は真っ白い子供だった。真白な髪を肩で切りそろえ、その裾からはやはり真白い首が覗いている。背中には人間に生えるはずのない、金属で出来た薄い羽翅があった。
“彼”はその子を知っていた。
知識の海から引っ張り出したのは「オーバマイスタとか大師匠と呼称されるような腕の良いカラクリ人形職人」ということだった。子供が見た目にそぐわずずっと歳をとっていることも知っていたが、“彼”はそういう知識以外のことをとんと思い浮かべることができなかった。

「キリちゃん、失敗なんて珍しいわね。どこか具合でも悪いんじゃなくって」
「大丈夫じゃ。どうも先方、双子の妹姫がおったのを隠していたらしいな。そちらに繋がってしもうた」
「身代わり人形の中身の接続先を間違えたってことね。普通の職人ならよくあること、新しい子を作製すればいいわ」

 黒い色をした美女と話すのを聞いて“彼”の記憶にまた一つ知識が浮かんだ。そうだ、僕は身代わり人形だ。とある国の王子様の。話によると失敗作のようだが。

「キリちゃん、この子はどうするの?」
「次の子ができるまで一ヶ月間。それから処遇を考えよう。それまでハジメにでも預けて置こうかの。暫しお眠り、可愛い子」

キリと呼ばれた白い人が、小さな手を伸ばして瞼に触れた。幼子にするようにキスをしてくれる。
声を聞きながら"彼"は意識を手放した。




# # #




一週間床に寝付いた"彼"の面倒を見てくれたのは、ハジメという女性だった。
ハジメは、妙齢にも関わらず、ズボラで賭博と酒が大好きで仕事がもっと好きなカラクリ職人だ。
"彼"にミドルと名付けてくれたのもハジメだった。煙管を片手に人の悪い笑みを浮かべるのもだいぶ見慣れた。

「アンタ、大体中くらいの大きさだからさァ」

言葉の意味を起き上がれるようになってから知った。鏡に自分を映し、成る程と思う。
焦茶の髪を短く刈った、くっきりした眉の男が映っていた。少年と青年の間ぐらいの年齢で、身長は高くも低くもない。横幅も成る程、中くらいの大きさだ。まさか、下着の中の話じゃあるまいとゴムを引っ張り覗いて見る。まあ、なかなか。
そんな訳で成る程とは思ったが、ネーミングセンスは皆無だな、とも思った。

ハジメは朝起きて迎え酒と言いながら呑んだ後、昼前には工房に下りて作業する。客やらとたまに雑談し、時々賭博場に行く。大抵ボロ負けして大荒れし、夜になれば贔屓の酒場で夕食を食べて、酒を持ち帰り呑みながら寝る。
およそ生きた経験の無いミドルは、物珍しさと好奇心で一週間、ハジメの後ろをついて回った。
そして飽きた。

「ハジメ、やる事がない」
「ああん? あんたにやる事がなくたって、あたしゃ忙しいんだよ。そんなに暇なら子供らのとこでもいってきな」

尻を蹴られて追い出される。ハジメはそういうところには思いやりと気遣いがない。
ぶたれた所をあてつけに摩り、大きな音をたてて扉を閉じた。



土くれに線を引き、陣地取り遊びをしている子供らをミドルは遠目に眺めた。
ミドルのはじめての「仲間に入れて」は、三日程前に敗北を喫していた。
他の子供達がやるのを真似して上手に笑顔が作れたはずだが、駄目だった。子供らの中でも特に大きな男の子が大声で「大人はいれない!」と言ったのだ。
大人じゃないと言いたかったが、身体の大きさがだいぶ違うのは事実だ。
その時の事を考えるとなんだか咽喉の奥がキュッと締まって、一歩も動けない。もう一度「仲間に入れて」をする事はできそうになかった。
そっと離れて廃屋へと歩を進める。
ミドルが偶然見つけた誰もいなくて誰にも迷惑をかけない場所だった。
穴だらけの床板、屋根の隙間から日の光が差し込むあばら家にミドルは座りこんだ。
外の音は聞こえるが、内側には人が居ない。いたとしても、ミミズやネズミ辺りだろう。
日はまだ高く、時間はたっぷりあったから、区切られた空間で物思いに沈むことに決める。



自分はなんのためにここにいるのだろう。
元は身代わり人形だ。誰かの代替をするのが本当の役目なはずだ。
だけど、それは駄目になってしまった。じゃあ自分は何をすればいいんだろう。この一週間、ミドルのできそうなことなんか全くありゃしなかった。
どこに行ってもお荷物になるばかりだ。誰も自分に役割を与えてはくれない。教えてくれれば、きっとできるのに。

つま先を弄り、ふと思い出す。

オーバーマイスタは、二週間後に処遇を決めるといった。
……。そうか。
宙ぶらりんだ。
工房で見た糸の絡まったマリオネットを思い出した。複雑に絡まって吊り下げられ、足を降ろす事も手を上げる事もできない。あれと同じなんだ。

ゼンマイを強く巻き過ぎた気がして、ミドルはお腹を抑え、蹲った。






「……、……」

どのくらい経ったか。声が聞こえた気がして、ミドルは耳を澄ませた。

「誰?」

今度はキチンと聞き取れた。女の子の声だ。花びらが擦れるような微かな声だった。

「淋しい、淋しい……」

その声は、ミドルの中で小さく反響していた。見えてもいないのにポロポロと泣いているのがわかるのだ。
自分とこの子は繋がっているからだとわかる。

「淋しいって何? どういう事?」
「どうもこうもないわ。淋しいは淋しいってことよ。ああ、淋しい……」

そう言って女の子はポロポロと涙を零し、声はだんだん弱くなり聞こえなくなった。

ミドルは、眉間の間が晴れ渡ったと思った。
多分、これが自分の役割だ。女の子の涙を止めるのが紳士の役目だということを、ミドルはやはり"知って"いた。
そうだ、よく見ればあばら家の破れ目から落ちる光だって、天使の梯子のようだ。
お腹のことなんか全て忘れてミドルはあばら家を飛び出した。








坂道を駆け上ると、一人の老婆がいた。腰がすっかり曲がって立ち枯れの木のようだ。
老婆は雑貨屋に寄ったのか、籠に食べ物を入れていた。林檎が二つ、落ちそうにバランスをとどめている。

「大丈夫かい、婆さん」

ミドルは落ちかけた林檎を戻してやった。

「おや、若いの。ありがとう」
「気にすんな。なあ、婆さん。寂しいってどういう事?」
「おや、そんな事を聞くなんて、坊やだったのかい」
「どういう意味だ? 坊やも若いのも年下の男のことだろ?」
「こりゃ、ほんとに坊やだね」

目蓋に埋もれた目をパチリと開けると、老婆はニコニコした。

「まあまあ。亀の甲より年の功だよ。寂しいっていうのはね、坊やが林檎を拾ってくれなくて、自分で拾うことになってたら感じていたかもしれないね」
「つまり、体が辛いってこと?」

ミドルは疑問符を浮かべた。でもあの子は淋しいっていった。辛いなら辛いというはずだ。

「うーん、ちょっと違うね。心が辛いってことさ。ちょいと難しいようだね。これを持っておいき」

眉間に皺を寄せたミドルを見て、老婆は林檎を差し出し坂道の下を指した。

「時間があるなら、まっすぐ下ってご覧」






まっすぐ坂道を降りていくと、掘っ立て小屋の横に乞食が座っていた。
ミドルは乞食に林檎を渡して聞いた。

「なあ、寂しいってどういう事かわかるか?」
「寂しいってなんだって? そりゃひもじいってことさ」

そうして、乞食が林檎を食べ終えるのを待った。

「なあ、林檎美味しかったか?」
「ああ、ありがとよ」
「じゃあ、寂しくなくなったか?」
「そんな簡単なもんじゃない、ひもじい奴は一生ひもじいのさ」

プッと林檎の種を歯の隙間飛ばすと、乞食は歩いていってしまった。




















# # #

 表通りの中でも他とは少しばかり雰囲気の違う、お忍びの貴族が馬車で乗り付けるような高級な店の並ぶ一画がある。その隅にひっそりと歯車でできたハートを象った看板。"ブリキの心臓"と装飾文字が書かれている。
ミドルは尻込みした。
いわばミドルの生まれた場所だが、足を運んだのは初めてだ。意識のない間に裏通りのハジメの工房にいたから、初めて見るような高級そうな佇まいはどうも身に合わないのだった。

「ただい、お邪魔します……」
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