メモ帳がわり
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DATE: 2013/03/01(金)   CATEGORY: オリジナル
うさぎけ
ああんもう終わんなかった!
一点にあった意識を解放するように長く息を吐き、縮こまっていた背筋を伸ばす。集中が途切れると途端に寒さを感じて琳吾はぶるりと震えた。
シャツと上に着たノルディック柄の分厚いカーディガンの袖を纏めて捲り上げているから、腕はむきだし。茶色の大きめなライダースジャケットは邪魔になって腰に結んでしまい、借り物のエプロンは身の幅にあっていない。
肘とブラックジーンズにまで跳ねた泥が白く点々と付いてしまっている。
目の前にはろくろが周り、成型間近の粘土の塊が出来上がりを待っていた。
「あー、もう。ダメだ!」
琳吾は衝動に任せてぐちゃりと粘土を潰した。





そもそもの発端は、大学から付き合う彼女との約束だった。

遠距離というものは厄介で、ちょっとフリーな時間があるからと簡単に会えるわけもない。お互い社会人、しかも古物商の端くれと考古学者の卵という特殊な職となれば尚更休みが重ねるのが難しい。毎夜たまに国際電話も兼ねるスカイプで会話を重ねるのが関の山だ。
おかげでクリスマス、年末年始は家族で過ごす羽目になった。いつも通りといえばいつも通りだが、数えてみれば半年会えていないことに琳吾は密かにガックリした。

一月も半ばをすぎた頃に、短い連絡があった。
2月末、会えそう。その内容に、思わず調子に乗った事は否めない。だって、いいところを見せたいものだろう、男なら。
デートコースを考えて、レストランに予約も入れた。ついでに簡単なプレゼントも用意した。アクセサリーみたいな装飾品を好まないから、実用的なハンドウォーマーだ。
zippoの刻印が入ったそれは、彼女の持つライターとお揃いになる。気に入ってくれるといい。



二月十四日。
その日、琳吾は有志で集まる古美術の勉強会を早めに抜け、帰宅の足を急がせていた。
勉強会用の資料と買い物袋をぶら下げ、マフラーに口を埋めて日暮れの道を歩く。立春をすぎてもまだまだ寒く、油断すれば鼻先が凍えて赤くなってしまう。
顔を上げると暗い橙色の空に薄紫の雲が一筋、刷毛で掃いたようにたなびいていた。うっすらとオリオン座が光っていて、なんと言えばいいのか、心に訴えるものがある。
弟たち、そう、例えば遥なんかは携帯に写真を残すに違いない。
そんな空だ。

電信柱の電灯が白く目立ち始める頃、家に帰り付いた。
家の垣根をすぎると暖かいカレーの匂いがする。確か今日は、来地が夕飯担当だ。
男子中高生の例に漏れず、下の弟たちはカレーが好きだ。鍋いっぱいに茶色のルー、野菜と角切り肉がゴロゴロと入っているのをスプーンに掬って、ハフハフと食べる。
食べている姿が幸せそうなのは言うまでもない。
顔を思い出して、ふと思いついた。
そうだ、もしかしたら使えるかもしれない。
大根の頭が飛び出した買い物袋の底を叩く。底には買い物中にご近所から頂いたチョコレートが入っているのだ。
カレーに入れるとコクが出る。そうでなくてもオヤツに食べるだろう。
鼻歌でも歌えそうな気分で、琳吾はガラリと引き戸を開けた。




あとは寝るだけ。
そんな時刻に、パソコンのスイッチをいれる。
青いマークをクリックしてスカイプを立ち上げると、フィー、ポンッと接続音がした。
埴輪のアイコンをクリックする。彼女は日本史専攻でもないくせに埴輪のアイコンを使っている。待ち受けも一時期これだったから多分好きなんだろう。
理解はしがたいが。黒々と開いた目と口を見ると、どちらかと言えばホラーな気分になるのだった。



「お仕事お疲れ様」
「そっちこそお疲れ様。今日はこっち、雪降ってたよ」

すっごく寒かった。学生さんと雪だるま作ったよ。そう楽しげに話す、明るい彼女の声が好きだ。
クスクス笑う声に自然に笑顔が浮かぶ。



「あ、もうこんな時間だね。明日もあるしもう寝なきゃ」
「え、俺、まだ大丈夫だけど」
「ダメだよー、琳吾くん。あたしが弟くん達に怒られちゃう」
「お前も明日仕事だしな」

今日は平日。忙しいことは分かっていたが、それでも会話がしたかったのは、世間の風潮に飲まれてのことだ。
簡単にいえば、琳吾も世の中の殆どの男と同じように、彼女のバレンタインに貰える一言で幸せになれる単純さを持っていた。

「あのさ、こう……言うことない?今日」



「? なんかあったっけ」
「いや、なんかさ、こう。あるよね。言う事」
「……あれ? もしかして気づいてた?」
「え? サプライズだったりした?」
「サプライズっていうか、やっぱりこういうのは自分から言うのは恥ずかしいというか。えへへ」

俺の彼女可愛い。
“好き”とかは俺だって、叶うなら直接言いたい。

「で、バレ」
ンタイン、と続けようとした言葉は嬉しげな声に遮られた。

「うん、ホント、どこでバレたの? 実は、留学が決まりました!」



「ーーえ?」
「2月の下旬から一ヶ月なんだけど。論文が評価されてね。当分中国の江西省だよ」

「2月の下旬って、もうすぐ? え、いないの?」
「うん、そうなんだ。お土産期待してて」
「あれ、もしかして忘れてる? 俺の記憶が正しければ、今月末、会う約束してた、よね……」

「え?」
「え?」





よくある事だ。彼女の師事する教授は忙しい人でかつフットワークが軽い。付き合う彼女も当然合わせて予定が詰め込まれる。
わかっていたが、半年の月日がホロリと愚痴を零させた。

「嘘だろ、半年ぶりぐらいに会うのに」
「ホントゴメンね。チョコはバレンタインに送るから。あとでまた埋め合わせさせて」
「埋め合わせって。これだけ会えてないのにいつ埋め合わせができるんだ?」
「う……。そんな事言ったって」
「あー、……ゴメン。ちょっとテンパって意地悪言った。仕事、頑張ってね」

ポンと通話を切った音がした。
(後でキャンセルの連絡入れなきゃ。たつ君にも店番大丈夫になったって早めに言わなきゃな。

しかも、『仕事と私どっちが大事なのよ』的な事を言ってしまった……女々しい)

布団に寝転んで毛布に簀巻きになり、一人反省会。弟達には見せられない姿だ。
夜も遅い。時間を確認して携帯を半纏のポケットに入れ、戸締りの確認をしようと立ち上がる。玄関、台所の勝手口とストーブ。溜息を吐きつつ茶の間のストーブを消火すると灯油の燃える独特の匂いが冬場を感じさせた。
襖を閉めたところで、ブルッと携帯が振動した。
メールだ。

『約束の日、駅前に10時』

そっけない文章は彼女の癖だ。
琳吾は首を傾げた。用事はなくなったんだろうか。レストランのキャンセルは少し待った方がいいかもしれない。
さっきまでの落ち込みは期待で少し軽くなっていた。




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