メモ帳がわり
まったりとオリジナルの小説未満のネタなどを放置する、メモ帳がわりの文章置き場です。
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DATE: 2013/09/04(水)   CATEGORY: 未分類
このネタをなんとか!
何とかしたいものです

 大通りを一本逸れると規則的に整えられた石畳の舗装がまばらになってゆく。踏み固められた急勾配な坂道の両脇には狭苦しく小さな店が建ち並び、表とはまた違う喧騒をみせた。
 そういう裏通りにハジメの工房はあった。歯車と工具をモチーフにした申し訳程度の看板の下、小さな扉を抜けるとカウンターではなく無骨な作業台がある。受付、会計をするための店は別にあって、ここは名の通り工房でしかないからだ。
 そんな所までわざわざ足を運ぶのは偏屈な顔馴染みか、急ぎや厄介事の客ばかりである。

 工房主のハジメはカラクリ職人には珍しい女職人である。とはいっても、地下足袋にニッカボッカ、艶の無いひっつめた髪とそばかすの持ち主で、色気とやらは余りない。
 接客はお粗末で、作業台の空いたスペースに行儀悪く胡座をかき、火種の入らない煙管を手持ち無沙汰に話を聞くのが常の、根っからの職人肌である。

 「頼むよ、ハジメ」

 ハジメの向かいでハの字に眉毛をさげている旅薬師は、少し前に懐中時計を修繕してからの付き合いだ。今回持ち込んだのは、背負子のカラクリ箪笥だった。乾燥した薬草や松脂の塊の細々した物を分類して入れられるように作ってあるものだ。大事な物を入れた引き出しが開かないんだ、という依頼にハジメはどうしょうも無いものを見る目を向けた。

 「あんた、カラクリ箪笥って何なのか解って使ってんのかい? この引き出しは開かないんじゃなくて、開かないようになってるんだよ」
 「そんな事を説明されたのは憶えてるんだけど、どうすればいいかがさっぱりなんだ」
 「薬を調合するのが仕事の薬師がそんな事で商売になるのかい……。まァ見てな」

 呆れ顔で腰の道具袋から小さな小槌を引き抜くと、箪笥の裏をコツコツと叩き、ハジメは音を聞いた。
 ふんふんと頷いて端から端まで叩き終えるとおもむろに引き出しを引っ張りはじめた。仕立てのいい箪笥というのは勢いよく閉めると空気が逃げられず他の引き出しが開いてしまうから、そうならないギリギリのリズムで作業する。

  シュッ、コトン 
  シュッ、コトン

 10回に満たないくらいか。ハジメはくるりと箪笥を薬師の方に向けると、ニッカポッカの片足を組んで腰を下ろした。腰帯に挟んでいた煙管を抜くと、右上の開かない引き出しの上を煙管で叩いた。

 「ほら、開けてみな」

 薬師がゆっくり引き出しを引っぱると、先程までの苦労が嘘のようにシュルと開いて、手紙の束が溢れ出た。

 「わ、わ」
 「何をこんなに詰め込んでんだい、無精者」
 「いや、大切な預かり物でね。助かったよ」

 散乱した手紙を集めて元通りに納める。金巻を出した男に、ハジメは首を振った。

 「お安い御用さ。さすがにこんな事でお代を頂いちゃ、職人の名がすたるってもんだ。次はもうちょっと手応えのある仕事を持っといで」

 山程稼いで高級時計が壊れたとか言ってみな、見事に修理してやろうよ。とハジメは機嫌良く笑う。
 そんな彼女に薬師はいつもの冗談を言った。

 「いつも悪いな、ハジメ。お前程の職人ならあと少し色気さえあれば、いつでも婿の来手があるだろうに」

 勿体無いことだ、と言われたハジメはそろそろ三十路の足音を聞く年頃で、押しも押されもせぬ嫁き遅れである。ハジメは眉を顰めた。

 「煩いねェ、余計な無駄口叩くんじゃないよ。いつ嫁こうとあたしの勝手だろう」
 「せめて男だったら、若い娘にモテただろうにな」
 「あたしが男でなくても、あんたよりモテるだろうよ」
 「そうですわ。ハジメ姉さんが男だったら、女の子なんて独占ですわよ。おじ様、良かったですわね。姉さんが女で」

 きっと面倒見のいい男前ですもの、と突如乱入したソプラノと共に扉から覗いたのはクラシカルなメイド服の若い娘だった。金茶の髪をゆったり編んでコサージュで留め、背中を隠すストールを一枚巻いている。掃き溜めに鶴の身なりの良さは、貴族の女中だと推し量れた。

 「おや、久しぶりに見た顔だねェ。メリーメイじゃないか」
 「ご機嫌よう、姐さん。メリーメイ、所用により帰宅致しました」

 スカートの裾を摘み丁寧に頭を下げる姿は身に染み付いて美しく、品の良さを窺わせる。

 「妹さんか? えらく似ていないな」
 「いや、向こうが勝手に呼んでいるだけで血縁と云うわけじゃない。さ、今日の所は帰ってくれないか。茶も出せなくて悪いがね」
 「おれもそろそろ行こうと思ってたとこだ。また頼むよ」

 肩越しに手を振って見せた薬師が扉をくぐるのを見送って、ハジメはメリーメイに向き直った。

 「お前、貴族様のお屋敷で働いていたんじゃなかったかい。またどうしてこんなとこに」
 「はい。そうなんですが、今日は姐さんにお願いがあってきましたの」

 そう言ってメリーメイは微笑みを消し俯いた。よくよく見れば、幾つかの違和感に気づく。
 常ならば、仕事用にきちんと纏められるはずの髪型は随分と簡素だし、顔色も悪い。
 メリーメイは唇を噛んで顔をあげ、青い目を潤ませた。

 「私、お屋敷で泥棒の疑いが掛けられているのです」
 「泥棒?」
 「勿論、潔白ですわ。でも、どうしてこんな事になったのかわかりませんの。このままだとクビになってしまいます」

 そう言ったメリーメイはとても疲れて見えた。
 いつも元気な娘だから、憐れな様子は尚更庇護欲をそそる。
 助けてやりたいのは山々だったが、ハジメではどうしようもないこともある。

 「潔白を証明して欲しいってェことかい? それをなんとかしろっていうのは、あたしにゃちょっと荷が重いねェ」
 「そんな事は分かっています。姐さんは脳筋ですもの。そうではなくて、今から家に帰るのですが、お父様に会う時に一緒にいて欲しいのです」
 「言ってくれるね……まァそりゃあいいけど。なんの役に立つんだい?」
 「私が心強いですわ!」

 両手を胸の前で組んだメリーメイが語気強くいうのに、ハジメはなんの事やらと天を仰いだ。
 工房を根城にしているハジメにとっても“家”に帰るのは久しぶりになる。なんの力になれるとも思えないが。

 「ま、いい機会だし、たまには家に帰るかねェ」





# # #





 表通りの中でも他とは少しばかり雰囲気の違う、お忍びの貴族が馬車で乗り付けるような高級な店の並ぶ一画がある。その隅にひっそりと歯車でできたハートを象った看板。"ブリキの心臓"と装飾文字が書かれている。
 その看板を見やり、紳士が一人、店内へと足を踏み入れた。
 高級店に似つかわしくなく、狭く薄暗い。壁には幾つもの種類の柱時計がコチコチと針を回し、ショーケースには小さな時計やオルゴールが宝石の様に陳列されている。靴音を聞いて老眼鏡の店員が手元から顔を上げた。
 フレッドはは帽子を取ると、奥方に言い含められた通り内ポケットからカードを出して見せた。老店員は手元に視線を戻し、無言で奥の階段を指差した。ここはそういう、客を選ぶ店だった。
 階段を登れば、世界が違う。



 「いらっしゃいませ」


  
 落ち着いたトーンが室内に響いた。
 毛足の長い絨毯、布張りのソファ、大理石の天板のティーテーブル。どんな魔法なのか、壁には葡萄の蔦が絡みつき、紡錘型の房から光を放っていた。一面は天鵞絨の布で覆われている。
 文句のつけようがないほどの豪華な部屋だが、何よりフレッドの息を止めたのは黒い女だった。黒い肌、黒い巻き毛。豊かな乳房と細い腰、張った尻を黒いドレスに押し込めている。上半分が肉感的に盛り上がる胸元と厚めの唇は成熟した女性を感じさせた。未亡人のように黒いベールで頭と肩を覆っており、奧から見つめる目だけがエメラルドの緑に炯炯と光っている。肉食の動物や呪われた宝石に似た不吉さを感じさせる、本能が危険信号を出すような極上の女だった。
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