メモ帳がわり
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DATE: 2013/10/03(木)   CATEGORY: 未分類
うさぎかきかけ
神無月、十月も五日ほど経って見ればあちらこちらに秋の訪れが見える。
商店街の八百屋にはすでに秋の味覚が出揃っていた。色艶のいい濃紫の長茄子とでっぷりと貫禄のある秋大根。
こげ茶に灰色の袴をはいた大粒の栗がネットに入り、ぶどうや梨はダンボールに行儀よく詰められている。
もちろんきのこの類も豊富に揃い、松茸からしいたけまで香り高く店頭に並べられている。その中のふた株ずつ青いプラスチック籠に盛られたぶなしめじを近所のスーパーより20円安くで買えて、琳吾はホクホクと笑顔を漏らした。
男所帯のうえ食い盛りの宇佐木家では家計の中でも食費が大きな比重を占めている。イコール、重要な節約ポイントになるということでもあった。

「琳吾くん、他はなんにも買わない? ちょっと時期過ぎてるけど、最後の夏野菜が安いわよ」
「夏野菜かぁ。なにがあるんです?」
「今年はまだ暑いからねえ。暑気払いに丁度いいから」

これからハウスになるから高くなるよ、と八百屋のおばさんが売り切りの棚にあるトマトやピーマンを指差す。時期すぎとあってか、8月ごろと比べて少し皮の薄そうな面持ちをしている野菜たちはそれでもつやつやと夏の面影を残している。
みていると、変わった野菜があることに気がついた。

「あれ? おばちゃん、冬瓜って夏野菜でしたっけ」
「そうだよ、きゅうりと一緒で瓜の類は夏が旬だね」
「へえ、冬ってつくから冬の食べ物だと思ってました」
「冬に食べてもいいけどね。今なら煮込んでスープにするのがいいよ。豚肉とほんのすこし、塩を入れてね。水を入れなくても、瓜の水が全部スープになってくれるのよ」

青白く、ふっくりとした赤子のような冬瓜は新聞紙が敷かれた棚に無造作に転がっていた。触れてみると見た目によらず短い硬い産毛をちくちくと指に刺す。
案外と痛い。持って帰るのは大変そうだ。
他のものはないかと棚を覗くと、そこにはごろりごろりと幾つかの塊があった。

「おばちゃん、これも夏野菜?」
「うん、そうよ。冬によく食べるから勘違いするわよねえ。色変わり始めてるからおまけするよ」
「じゃあ、これとそれから……」

そう言って琳吾は無造作に人差し指を伸ばした。



*   *   *




遅い休憩時間を終わらせて、茶の間から店に降りる。丁度客が出て行ったのか扉の閉まる音がした。肩を叩くとレジに立っていた達巳が顔を上げる。

「りんちゃん、もう休憩おわり?」
「うん、たつ君店番ありがとう。お客さん来た?」
「うん。……女の子が何人かくらい」

そういいながら達巳はぐうっと腕を伸ばして伸びをする。いつも少し猫背気味な達巳は兄弟の仲で一番背が高く、狭いレジでは手足を持て余す。
梁に届きそうな手をゆっくり戻して、横の棚で口をむにむにと動かしている兎のノブナガを腕に抱いた。

「ずいぶんたくさん買ったね。夕飯の買い物じゃなかったの」
「夕飯の分もあるんだけど、八百屋で面白いもの見つけてきちゃって」

琳吾はぶら下げたエコバックから深緑の塊を取り出した。
ごろりとレジ台に転がす。

「……かぼちゃ?」
「10月でしょう、月末にはハロウィンだとおもって。装飾用のカボチャも花屋で買ってきたんだよ」

琳吾は店の隅に置いていた籐籠に大きい深緑のカボチャと装飾用の橙のカボチャを載せると、レジ横の引き出しからラッピング用の細いリボンを二種類取り出し、手早く花を作って括りつけた。持ち手にもくるくると巻いていく。

「……ハロウィンぽいね」
「らい君辺りに装飾させたら、もっと女の子向けのものができるかもね。ついでに今年の春、面白いものを父さん達が送ってきたのを思い出したんだ」
「春に? 覚えてない」
「まあ、面白いと思ったのは俺だけだからね、言ってないし」

確かこの辺に仕舞っておいたんだよ。リボンを巻き終えた琳吾はレジ裏のお客様には決して見せられない混沌の空間を探った。
ガシャリ、ゴソリと音をたて、古紙の塊がレジ台の上に八つほど置かれる。
古紙を解けば、くすんだ金属の塊があらわれた。

「ランタン?」
「そう、ランタン。南瓜からハロウィン連想したら思い出したんだ。コレ、秋分が過ぎたら出そうと思っていたのを忘れてたな、と」

古紙をすっかり除けてしまえばランタンが顔を出す。
煤けた深緑の台の上に緩やかにカーブしたガラスを針金で縛った実用できそうなランタンがあるかと思えば、四角いフォルムに透かし彫りでアラベスクを象ったもの、錆止めを塗った黒い鉄枠にレトロな黄色の色ガラスを張ったもの、陶器にに南瓜のようなでこぼこに波打つガラスを張ったものなど、形はさまざまだ。どれもキャンプで使うものより一回り小さく、装飾品だと知れた。

「もう日が落ちるのが早くなったし、秋支度には丁度いいと思ってたんだ。夕方の薄暗い時間に、小さい明かりを燈して玄関のアプローチに下げてほしいなって」
「はあ」
「ちなみに俺の一押しはこれ。普通の装飾ランタンでしかも足が片方欠けてるんだけど、よく見たらナルニア国のガス灯の挿絵とそっくりなんだよ。ファンタジーが好きな人に買ってほしいなあ。それから値段でいうならこれが一番。チェコのガラス工房のやつで色ガラスの透け方が他と違うんだ」
「……」

独壇場になりつつあった店内にリン、と短い金属音がした。

「ただいまー」
「あ、……らいちゃん」
「達巳兄ちゃん、琳吾兄ちゃん、ただいま。おなかすいた!」
「らい君、玄関からもう一回入っておいで。それから手を洗って」
「もー、琳吾兄ちゃんはうるさいなー」
「さつまいもあるけど食べないの」
「食べる! ちょっと待っててー」

バタンと扉が閉まって、突風のように来地が駆けてゆく。
末っ子は相変わらずのマイペースだが、腹の具合で判断がすぐに引っくり返る。まだまだ子供らしくて思わず吹き出した。

「りんちゃん、さつまいもあるの?」
「うん。安くてさ、かぼちゃと一緒にいっぱい買ってきたんだよ。らい君が食べると思ってさっき鍋で蒸かしておいたよ」
「……僕も」
「食べる? それならちょっと休憩しておいでよ」
「うん」

頷いた達巳が垂れ下がった目隠しののれんを押し分ける。その隙間から、再度能天気な来地の声がした。

「兄ちゃあん、亜里沙きたよお」





*   *   *

乱雑に靴が並んだ玄関に少女が一人、二つに括った髪を揺らしてもじもじと立っている。
腕には一抱えのダンボールの箱が収まっていた。

「ごめんください、あの、お裾分けもってきました」

おばあちゃんの家から送られてきたんです、と恥ずかしがりの女の子はこんもりと盛られた濃赤紫色の山から顔を上げた。
八百屋で買ったよりも太さのあるさつまいもだ。焼けばほっくり、ねっとりした甘い黄色になるだろうさつまいもだ。
思わぬタイミングに絶句すると、どたどたと台所のほうから足音が近づいてきた。来地だ。制服のネクタイはどこに行ったのか首元はボタンがはずされ、お下がりの大きなカーディガンを羽織ってすっかり寛いでいる状態だ。片手にしっかり蒸かした芋を持っている。
頬袋に詰めたものを飲み下して来地が無遠慮に口を開いた。

「タイミング悪いなあ、亜里沙。琳吾兄ちゃんが今日さつまいも買ってむぐぐ」

達巳が素早く来地の口に芋を押し込んだが間に合わなかったようだった。心無い発言を聞いてしまって亜里沙が悄然と立ち尽くす。

「ありがとう、亜里沙ちゃん。おばさんにもお礼言っといてくれる?」
「迷惑じゃなかったですか?」
「もちろん。うちは男兄弟だからね、たくさん食べるんだよ。おやつにすればすぐになくなるから」
「よかった」

ほっと胸を撫で下ろして笑った亜里沙に、こちらこそこっそり安堵のため息をつく。
宇佐木家の末弟とお隣の娘さんは、互いの心象はどうあれ相性が微妙に悪い。

「じゃあ、本当にありがとう。気をつけて帰ってね」
「お隣だもの、大丈夫です。でもありがとう、琳吾さん」

そのとき、再度ガラガラと玄関の引き戸が開いた。
悠だ。

「ただいま。あれ?なんでみんな揃ってんの?」
「あー…はる君、それって」

悠はああ、と頷いて大きなビニール袋を差し出した。20リットルは入りそうな大袋だ。

「これ、バイト先で貰ってきた。スーパーのおばちゃんたちが、傷が付いて商品にならないからって」
「悠兄ちゃん、これの中身ってさあ」
「さつまいもだけど。……え、なに? なにその目」
「いや、はる君ってほんと、タイミング悪いよねえ」

やれやれとため息をついても現状は変わらない。狭い玄関でまたしても薄く涙目になっている亜里沙に、琳吾は後ろ頭をがりがりと掻いて言った。

「ええとね、亜里沙ちゃん。せっかくお芋貰ったし、今からさつまいもで料理しようと思うんだけど。良かったら一緒に作っていかない?」




*   *   *

店を空けるわけにもいかず、達巳にはレジに戻ってもらった。一方、理不尽な罵りを受けた悠は不貞腐れたのか二階に籠もってしまった。
宇佐木家の台所という名の土間には琳吾と中学生が二人。簡易なお料理教室の体裁だ。使い古しのエプロンを渡し、手を洗うと、嬉々として口を開いた。

「琳吾さん、何作るんですか?」
「おれ、スイートポテトパイとか好きだよ!」

先ほどとうってかわって元気な声の子供二人に琳吾は苦笑いする。

「うーん。スイートポテトパイって確かにおいしいけど、手順も面倒だし材料も結構いるんだよね。今日は簡単にできるイモ天にしようか」

作業台にまな板代わりの木の板を置けば二人でも作業できるだろうと包丁を渡す。包丁を使い慣れている来地は鼻歌交じりに、亜里沙はこわごわと受け取った。繊維質の多いさつまいもは硬いから、なるべく髭根の少ない、太い紡錘形のさつまいもを選ぶように教える。
二つに割れば白いクリーム色が現れる。それを一センチの太さの短冊に切っていくのだ。
でんぷんが包丁に白く膜を貼る。それをときどき拭い、でんぷんが固まる前に手早く作業しないと行けない。

「琳吾さん、これ、どのくらいの大きさですか?」
「適当でいいよ。あえて言うならモスバーガーのポテトぐらいかな。ゆっくり切っていいから怪我しないようにね」

わかりにくい例えにも健気に頷いて、亜梨沙はまな板の上に集中しだした。覚束ない手つきに来地がなにか言いたそうにするのを、人差し指でしー、と押し留める。不慣れな手つきでも猫手で慎重に切っているから、怪我はしないだろう。
二人が芋を輪切りにするのを横目に、琳吾は大なべにてんぷら油を温めはじめた。宇佐木家のコンロは年代物のガスコンロで、てんぷら油が温まるのに結構時間がかかる。
「あ」だの「やっちゃった」だの動作が騒がしい二人も、しばらくするとコツを掴んで作業が進む。

「終わったー! 琳吾にいちゃん、できたぜ」
「切り終わったよ、琳吾さん」
「お疲れ様、ありがとう。じゃあ続きをしようか」

二人で手分けした芋の短冊は大きな竹笊ひとつ分くらいになった。それをまとめて少し塩を入れた水にさらす。あく抜きのためだ。
さらした芋をビニール袋に小分けにして、一袋ずつレンジでチンする。
卵とホットケーキミックスを混ぜて、牛乳で少し緩めればだいたいの準備は完成だ。

そこからは早い。
少し色味を増して温まった棒状のイモをホットケーキミックスの衣にくぐらせ、そのままそっと油に投入。そのまま色が付くまで揚げれば完成だ。


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