メモ帳がわり
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DATE: 2016/05/06(金)   CATEGORY: 未分類
原稿仮保存
タイトル
新田圭子

 今、過去に戻れるなら、自分に教えたいことがある。かつて黒いセーラー服を着ていた頃、大人になったらいろんなことができる気がしていた。友達づきあいなんかもその筆頭で、「可愛い」と褒めあい裏で陰口を言うようなクラスメイトを見ながら、湿っぽい関係に嫌悪感さえ抱き、教科書に向かいあってばかりいた。大人になったら、もっとスマートにやれるはず。チャンスがきて、物事がうまくいくはず。そんな想像に酔っていた。
 過去に戻れるなら自分に教えたいことがある。大人なんて概念はただの幻想で、過去の自分の延長線にしかないということと、チャンスはそんな簡単にはめぐってこないってことを。
 分厚い硝子の中に、生クリームのように濃い白色と、その下に琥珀色が詰まっている。リタはこの場の最年少だった。十八歳で社会人となった経緯から免除されてきたお酒も、いくつか宴会を繰り返せばパスできず、はじめて飲んだビールは苦い味がした。
 先輩の送別会は、理由が「寿」であることから、とても陽気なものになった。疲れて老けた顔のおじさんたちも顔を赤くして笑っていて、同期の女性も運ばれてくるサラダやから揚げを配って食べて、「気が利くねぇ」なんて言われてにこにこしている。その片隅でリタはやたらに冷えたジョッキの取っ手を握って、なぜ結婚退社を「ことぶき」というのか、なんてやくたいもないことを考えながら、掛けられる言葉にハイ、イイエと返事をしていた。無愛想なことには自覚があるし、上手い返しなど思いつかない。飲んでも陽気になどなれなかった。心許せる人は居ない。見えない壁があるみたいに、世界に自分が混じれない気がしたし、混じる気もしなかった。避けてきた人付き合いは、相変わらず得意ではない。
「ねえ、婚姻届って見たことある?」
 テーブルの斜め前で、主賓の先輩が明るい声を上げた。女性陣の固まったテーブルで、彼女らの前には、カシスオレンジやモスコミュール、なんて名前の飲み物が置いてある。どこでそんな名前を覚えてくるのだろう。
「私、見たことない、離婚届なんかはドラマでも見るけど」
「婚姻届出すところやるドラマってなかなかないもんね。結婚式に一足飛びだもん」
「そう思って、今日は持ってきてみました!」
 先輩がサブバックからクリアファイルを出した。
「書き損じがあるかと思って多めに持ってきてって頼んだら、彼が十枚くらい貰ってきちゃって。ちょっと書いてみない? 夫のところは空けてさ」
 碌に返事もせず、ぼんやりと見ていたリタのところにも、その紙はまわってきた。気を使われているのかも知れず、居心地悪くボールペンをひっぱり出す。隣に倣って広げたA3のサイズの紙には可愛い装飾がついていて、役所に提出する書類の形式とは思えなかった。ジョッキをテーブルに置くと、硝子についた水滴が円く輪を描いて紙を濡らした。さっきまであったビールの白い泡は、すっかり意気消沈して黄色が見えている。禿頭に少し残った白髪を連想してしまい、うんざりとした。なのにテーブルは盛り上がっていて、やっぱり混じれないな、そう思いながらボールペンを握った。

 まぶたの向こうが白く透ける。懐いた枕が、いつもと違う匂いがした気がしてリタはくん、と顔を押し付けた。花のような、植物独特の清涼な香りがして、肌触りのよい布が頬を撫でた。気がついて、むく、と起き上がる。
「ここどこ?」
 いつもの自室ではなかった。白色でまとめられた家具類、チェストの上には帽子が飾ってある。品のよいブルーグレーの絨毯が床に敷かれていて、リタの寝ていたベッドのボックスシーツからフリルが垂れている。本の散らかった安アパートの自室とは違う、お金のかかっていそうな知らない部屋だった。
 状況についていけず呆けていたリタは、ハッとしてシーツをめくった。服は着ている。早鐘を打ち始めた心臓を抑えて周囲を見回すと、ベッドヘッドに畳んだ上着とバッグが揃えて置かれていた。
「も、もしもーし……」
 上着を着ながら、小声で呼びかけたが返事はない。バッグを漁って携帯を見れば、始発の出そうな時間だった。
 丁度いい、こっそり出て行こう。
 決意すればはやく、部屋の扉を慎重にくぐり廊下を伝って玄関を開けた。
「ごめんなさいっ」
 扉の奥に向かって小さく謝罪の言葉を投げた。そのまま閉じた隙間から、オートロックだったのか、鍵の閉まる金属音がした。

 大変なことに気がついたのは、会社でメールをチェックしているときの会話だった。
「昨日大丈夫だった?」
「え?」
「結構呑んでたでしょ? 足取りはふらついてなかったからそのまま帰したけど」
 未成年なのにごめんね、と同期が言う。確かに同期だが、年は四つくらいリタのほうが年下だった。
「うーん、まあ……ちょっと覚えてなくて。でも大丈夫です」
「そっか。そうそう、飲み会で書いた婚姻届、今日持ってきた? シュレッダーにかけたほうがいいって先輩がいってたやつ。それは、覚えてるよね?」
 確かにうっすらと記憶があった。うなずいて、バッグの口を開ける。始発で帰宅してすぐに出社したから、バッグは昨日と中身が変わりなかったはず。だが、書類はどこにも見当たらなかった。
「……ない」
「ウソ、個人情報満載だし、万が一役所に届けられたら受理されちゃうんじゃない? 大変だよ」
「ええ? スパイ小説くらいしか、そんな話聞いたことないですよ」
「わかんないよ、ちょっと怖い話してもいい? あのね、アメリカ国籍って、アメリカで生まれると取れるわけ。でも日本の国籍ってとりにくいの。親が日本人じゃないといけないから。でね、どこの生まれでも簡単に日本国籍になれる方法があるんだけど……」
「うわ、言わなくていいです、わかりました。真面目に探します」
「手伝おうか?」
 掛けられた言葉に少し考えてリタは答えた。
「いえ、大丈夫。一応心当たりありますし」

 仕事終わりに店に問い合わせてみたものの、探し物は出てこず、近くの交番に聞いたけれどもやはり出てこなかった。一番可能性が高いと思われるマンションにもいったが、セキュリティの厳しさにエントランスまでしか入れず引き返し、途方にくれてコーヒーショップに至る。
 万策尽きたってこういうことかな。リタはカフェオレを啜った。コーヒーでないのは、単に苦くて飲めないからだ。
 窓越しに件のマンションが見える。恨めしく睨み上げても、何の変化もなかった。こういうとき、普通の人ならどうするのかな、と思う。たとえば、手伝おうかといわれて素直に「お願い」といえる人なら。
「これ、試供のケーキです」
 突然掛けられた声に、リタはビクッと肩を跳ねさせて振り向いた。反応にびっくりしたのだろうか、ショップの制服を着た女性が、目を丸くして立っていた。
「あのこれ、今度出るケーキなんですけど……?」
いらないですか?



起 18で就職して社会人になってからも親しい友達がいないことをコンプレックスに思っている主人公。同期ともなんとなく壁がある。先輩の寿退社で一気飲みを断り、罰ゲーム的に婚姻届を書く。その後酔っ払い、記憶なし。翌朝、知らない人の部屋で目覚める。服は着ている。パニックになってあわてて飛び出す。部屋の持ち主はわからない。
承 冗談で書いた婚姻届を紛失したことに気づく。慌てて探すも見つからず、あの部屋のあるマンションに近づく。ただし、マンションはセキュリティが厳しくて簡単に入れる雰囲気ではない。どうしようもなくて、三日ほど近くのスタバに通う。 三日目、スタバで突然サービスしてもらう。相手はかわいらしい女の子。
転 「最近、よく来てらっしゃるんですね」「なくし物をしちゃったのよね」「ねえ、私今日はもうすぐ上がるんです」一緒に探しましょうか?
なんとなく一緒に探しながら話をする。心が弱っているせいか、なんとなく経緯とコンプレックスの話もしちゃう。
「こういうときに流し方っていうか・・・助けの求め方がわかんなくて」
「こうすればいいんです」にこっと笑って手をとられ、ギュッと握られる。「私、困ってるんです」チワワに似たつぶらな瞳。
「ね、あなたがこうしたら、私絶対助けます。やってみて」
やらないわよ、そんなことできるわけないでしょ。大丈夫、絶対可愛いです。可愛くないわよ、あんたは可愛いからやれるかもしれないけど。
今日はここまでにしとく、と言って別れる。帰っていく先を見ると、あのマンション。
結 翌日、スタバで待ち伏せ。上がる時間を聞いて、マンションに入れてくれないかお願いする。例のアレで。
「やってくれないんですか?」
「やるわよ、やればいいんでしょ!だからその目やめてよ。 えーと、あの…わ、わたし…困ってるの…」
「可愛い!」ハグ。
「目がおかしいんじゃないの…あーもう、顔熱い」
マンションの部屋がその子のところだったと発覚する。婚姻届に名前を書いて渡される。婚姻の部分は友達に書き直されている。
「そういやあの日、何であんたの部屋で寝てたの?」
 あの日、酔っ払った主人公は、バイト帰りの彼女と出会い、介抱される。ふにゃふにゃだけど、文句を言う。恋人とか結婚相手なんか、ずっと先でいい。でも、こんなことを言える友達ってやつ、私となってくれる人いないかな。
「はいはい、私がなってあげますから、お水飲んでください。交番まで連れて行きますから」
「本当? 友達になってくれるの? ……じゃあ指きりしよ?」
 残念なことに、指きりしようとねだってくる主人公をなぜかすごく可愛く思ってしまって、ほだされて家に連れて帰った。
「ね、ゆびきりしたから、わたしたち本当はもう友達なんです。でも覚えてないから」
これです、と紙をひらひらさせる。
主人公の顔はまっか。でも小指を立てる。
「じゃあ、覚えてるときにしなさいよ」
にこっと笑って、小指を絡ませる。
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